「1999 RQ36」と名付けられた小惑星は、7月下旬に各種メディアで
「2182年に地球に衝突する可能性がある」と取り上げられ話題になった。
科学学術誌「Icarus」の2009年10月号に発表された研究が基になってい
る。RQ36は一部の研究者が2007年から注目し、すでに探査機の計画段階
まで来ている。小惑星衝突の予測精度向上や回避手段の発見のため、
RQ36のサンプルを持ち帰るという野心的なミッションだ。
101955 1999 RQ36
Earth Impact Risk Summary
アメリカにあるアリゾナ大学月惑星研究所(Lunar and Planetary Laboratory)の所長マイケル・ドレイク氏は、「到達しやすいということは、地球に衝突する可能性も高い」と話す。同氏はオシリス・レックス計画が実現した際にチームリーダーを務めることになっている。
RQ36は、太陽から1億3300万〜2億300万キロの楕円軌道を描いており、地球の軌道からおよそ45万キロ以内を通過する。このため、NASAでは正式にRQ36を「地球に衝突する恐れのある小惑星(PHA、Potentially Hazardous Asteroid)」に分類している。
「Icarus」誌に掲載された研究では、「580メートル大のRQ36が、1000分の1の確率で2182年に地球に衝突する」と予測している。
アメリカのコロラド州ボルダーにあるサウスウェスト研究所の惑星科学者で、オシリス・レックス計画チーム、「Icarus」誌の研究チームのどちらにも所属していないクラーク・チャップマン氏は、「地球の文明が壊滅することはないが、それでもかなりの“パンチ力”を秘めている」と語る。「その衝撃は最大級の核爆弾数百個に匹敵し、衝撃で直径約10キロのクレーターが生まれるだろう」。
ただし、RQ36を含めすべての小惑星の軌道計算には不確実性が存在し、本当に衝突するかどうかを知るには「ヤルコフスキー効果」と呼ぶ影響を解明しなければならない。
ヤルコフスキー効果は、太陽光を浴びた天体が熱放射の不均一を生じ、軌道がわずかに影響を受ける現象だ。何回も重なれば小惑星の軌道経路がいずれ大きく変わってしまう可能性がある。「地球と同サイズの天体なら問題にならないが、直径20キロ以下なら、その軌道を変化させるのに十分な力だ」と前述のドレイク氏は言う。
地上からヤルコフスキー効果を計測しようとしても、現在の観測技術ではまず不可能である。小惑星表面の不均一さは識別不可能で、自転や揺らぎの動きも一定していないためだ。したがって、現在数多く出ている衝突予測でも、軌道計算にこの効果は加味されていない。
オシリス・レックス計画が実現すれば、探査機は2019年にRQ36へ到達し、可視波長域から遠赤外線波長域までのマッピングを実施、着陸してサンプルを採取後、2023年に地球に戻ってくる。
同時にヤルコフスキー効果が初めて正確に計測され、小惑星の解明が進むと期待されている。ドレイク氏は、「このミッションから得られる情報は、RQ36などの小惑星衝突から地球を守る上で極めて重要になる」と述べる。
前出のチャップマン氏は次の点を指摘する。「衝突回避策の有効性についても考慮する必要がある。RQ36は形状から判断して、表面が“緩い”物質でできているようだ。サンプル採取には好都合だが、軌道経路を変える回避装置の設置には具合が悪い。とはいえ、実際どうなっているかは接近してみなければわからない」。
Andrew Fazekas for National Geographic News